今日僕のはじめての漫画書籍『会社員でぶどり』が発売されました。会社員でぶどりにまつわる何かを記事にしようと思ったので、発売に至った経緯をまさかの幼少期から振り返ります。
幼少期
思えば小さいころから、絵を描くのが好きでした。
自由帳の1ページを30コマ以上に分割し1つのコマに1体のキャラクターを描いてノートを埋め、週一時間だけ活動する小学校の漫画部ではぼくだけがクリップでも留められないぐらい長編の漫画を描いて先生がドン引きしていました。しかも1ページはゆうに20コマはあり、今思うと狂気です。
徐々に絵を描くことに恥ずかしさを覚え、中学と高校はさして強豪というわけでもないテニス部で常に真ん中ぐらいの強さをキープ。勉強もそれなりにやりました。(この間に思い出される印象的な出来事は、高校時代になぜか不良モノの劇をやったとき、僕が殴り飛ばすハズだった田中くんが予定よりえらく遠くにいたので仕方なく腕を振ったら田中くんが吹き飛び、壇上で一人だけ衝撃波を使えるヤツみたいになったことぐらいです)この時期はイラストとは無縁でした。
就活〜社会人期
大学では3回生のとき、周りがするから自分も就活。参加すれば図書カードが2000円分もらえるという合同説明会で出会ったIT企業に入社します。その会社はいい人たちばかりで、話に聞いていたIT企業のイメージとは違いました。ぼくが配属されたのは社でも特に優秀な人たちが集まるチーム。ここで一流のシステムエンジニアになろうと決めたぼくは、その人たちにまったくついていけませんでした。
1年目だから仕方ないとも思いましたが、まずITに対する情熱の違いに気づかされます。会社で仕事をしたあと自宅に建てたサーバーで稼働するゲームを作るような人たちを見て、「ITを好きでもない自分がどうひっくり返っても勝てない」と悟りました。そのとき何クソと思って自分のできる仕事に向かえばいいものを、ぼくのやる気は別の方向へ。自分が本当に好きだったこと、小さい頃好きだった絵をまた描こうと思い、ほとんどはじめてと言っていいレベルのデジタルイラストで試行錯誤しながら「でぶどり」という太った鳥のキャラクターのLINEスタンプを完成させました。あまりに線が歪んでいるので今では狙って描いたと思われています。
この頃から「やりたいことのために必要だけど自分が知らないこと」が書かれた本を片っ端から読み漁りました。会社帰りは本屋に行き、通勤電車や家にいる時間は可能な限り読書、ランチも断って昼休みのうち50分読むこともありました。特に堀江貴文さんのように当時の自分にまったくなかった考え方の人の本をかなり読んで価値観を変えていきました。
社会人2年目になったとき、あらゆる体験が「会社を辞めて好きなことに挑戦するきっかけ」に感じます。中でも胸に響いたのは、大学時代にちゃらんぽらんだった友達が地元に帰ってバーを開く夢を叶えたと聞いたこと。「アイツが頑張ってるのに俺は何をしてるんだ」…。結局ぼくは1年半で会社を辞めました。あとで聞くとアイツはバーを開いてませんでした。
フリーランス期
「最近の若者は忍耐力がない」
「お前なんかがフリーでやっていけるはずがない」
という嫌味は一切なく、むしろ1年半しかいなかった僕の送別会に部長やリーダーの方々が来てくれるくらい温かい会社でした。あまりにも気持ちよく送り出されて逆に寂しいくらい。
フリーランス(と名乗ってはいるものの実態はフリーター)になったぼくは残された貯金の多くを展示会への出展(展示するものもないのに…)や、半年間のデザイン学校などに使ってしまいます。そのときは「やるかどうか迷ったらやる」という一歩間違えば危険な超行動派の考えに染められていたからです。あの多額の出費は失敗だったと言う人もいるかもしれませんがあの失敗があったからこそ今の自分が…という綺麗事ではなくただの大赤字だったので普通にやらない方がよかったです。デザイン学校は現役のフリーランスの先生と出会い、授業後も親身に相談に乗ってくださった先生のおかげで学びはたくさんありましたが、いかんせん退職後の貯金で払った学費は苦しく授業で使わないどデカイ紙を買わされたのでメルカリで売りました。
ビジネス系の交流会でもらった仕事やクラウドソーシング・LINEスタンプなどでなんとか生活していた2017年の末、フリーになってからずっと読んでいた漫画「フリーランスで行こう!」のファンの集いに参加。たぶんこの会に行ってなかったらぼくは今でもクラウドソーシングでギリギリの生活をしていたかもしれません。そのつながりから、大阪で行われたクリエイターの集まりに参加したときのこと。あるデザイナーさんと出会って「SNSへの作品の毎日投稿」を知り、素直に自分もやりたくなりました。
「漫画を毎日投稿したい」
「毎日やるならカンタンなやつを描こう」
「あ、そういえばアイツがいたな。」
そして2018年1月1日から「毎日でぶどり」を毎日投稿し始めました。
毎日でぶどり期
当初は「1年間、毎日投稿を継続したという自信」を得るためだけに続けていて、結果的にWebメディアなどででぶどりを描く仕事がもらえたら嬉しいなぐらいに思っていました。更新を半年ほど続け、フォロワー数がもうすぐ1000人になるくらいだったある日、産業編集センターという出版社から書籍化のお話をいただきました。自費出版でもドッキリでもない一般書籍とのこと。階段を二段飛ばしどころじゃない、想像の斜め上を行くお話でした。クリエイターとしての実績が欲しかった僕はすぐ「書籍化決定!!!」とあちこちで告知してしまい「いつ出るんでしたっけ?」と2万回ぐらい聞かれました。
そこからは「売れる本にしなきゃいけない」という思いだけ。描き下ろしを含めて110本近くある4コマ漫画をすべて描き直しました。そして本を売るにはたくさんの人に知ってもらわないといけないと思い、フォロワー数を増やす試行錯誤を本格的に開始。イラストエンサーという、SNSでの漫画やイラストを投稿しているひとたちにたくさんのことを学びました。フォロワー数が多い人がどういう意図で投稿をしているかをストーカーの如く研究し、SNSで人気になるにはどういうポイントが重要かという仕組みを調べ、絶対数が足りないと気づいてから3ヶ月くらいは1日2本投稿も継続しました。当然中身が伴っていないと戦略にも意味はないので、毎日投稿が続けられる範囲で話もしっかり考えました。あるとき「毎日でぶどり」がLINEニュースになり、会社員時代に本を読み漁っていた堀江貴文さんから「おもろ」とたった3文字の言葉つきでシェアされたときはイスから落ちました。
結果、Instagramでは186000人、Twitterでは39000人のフォロワーさんに見ていただくことができるようになりました。もちろん数が全てではありませんが、たくさんの人に届ける可能性は上げられたかなと思っています。
そして2019年3月13日「会社員でぶどり」が本になって発売されました。
頭では本屋さんに並ぶと理解していましたが、毎日のように行っていた本屋さんに並ぶ自分の本を見たときは感動しました。綺麗事ではなく、この書籍化は多くの人と出会ってたくさんのことを教えてもらったことと、自分ができる範囲のことを続けたこと、そして幸運によって実現しました。
この本は、特定の働き方を揶揄したりブラック企業を辞めよう!という話ではありません。「生き方や働き方は自分で選択できる。大きな変化が欲しいなら小さな行動を起こし続けるしかない。」ということをテーマにしています。よければお手に取ってみてください。
橋本ナオキ