自己啓発書の成功法則を科学的に検証する『残酷すぎる成功法則』橘玲監訳




『残酷すぎる成功法則』という本を読みまして。これがかなり面白いです。

数々の研究結果や実在の人物の成功事例から、一般的に正しいとされている成功法則が当てはまるのかを科学的に検証した一冊です。

巷に溢れる自己啓発本の内容を盲信していませんか?という注意喚起的な内容といった印象でしょうか。原題『Barking up the wrong tree』は直訳で「間違った木に向かって吠える」=盲信ですね。

例えば、望んでいれば叶うという『引き寄せの法則』は脳科学的には間違っている部分があるそうです。その部分も含めて気になった内容についていくつかピックアップして紹介していきます。

一見”劣っている部分がある人”が人生で大成功を収めている

スウェーデンの言い伝えでこんな言葉があるといいます

「大半の子どもはタンポポだが、少数の子は蘭である」

タンポポはそれほど綺麗な花ではありませんが、手間暇をかけなくてもたくましく育つ。一方蘭は、きちんと管理しないと枯れてしまうが丁寧に世話をすれば見事な花が咲くと言います。人間にも同じことが言えて、遺伝子的に欠点があるとされている人ほど、犯罪者になる傾向も成功者になる傾向も強いそうです。何が成功を決定付けるかというと、環境です。

水泳選手のマイケルフェルプスが『天才』の例として挙げられています。彼は誰もが知る水泳界の天才であり成功者ですが、その実は足が短く、胴が長く、腕が長く陸上で俊敏に動くようにはできていません。しかし彼は水泳という自分に向く土俵を選んだことで五輪史上最多のメダルを獲得するスイマーにまで成長しました。もちろん体型以上に努力によるところが大きいでしょうが、もしマイケルフェルプスが陸上選手になることを志していたらここまで圧倒的な成績を残す選手になれた可能性は低いでしょう。

つまり、遺伝子や生まれ持った性質などで生物の機能として欠陥がある場合でも環境によっては成功の要因となりうるということです。自分の力を発揮できる環境を求めることを諦めてはいけませんね

 

やり抜く力(グリッド)は本当に必要か!?

グリッド(やり抜く力)が成功には必要であるとされています。しかし、どんなことにもグリッドを発揮して最後まで貫いていてはどんどん非生産的な行動が増えていくばかりだと指摘しています。

「戦略的放棄」というものもある。あなたがひとたび夢中になれることを見つけたら、二番目のものを諦めることは、利益をもたらす。

ある大手投資信託の経営者であるスペンサー・グレイドンは、肝機能や免疫機能が他人より劣っているために僕達よりも1日で使えるエネルギーが限られているそうです。そこで彼は1日に1つのことを成し遂げることだけを決めて行動しました。その非生産的な行動の一切を省きひとつのことに集中した結果、彼は一般的な人よりもエネルギーが少ないことで一般的な人よりも多くのことを成し遂げたのです。

皮肉なのは、 非生産的なことを一刻も早くやめないがために、もっと重要なことをしたり、あるいは重要かも しれないことを試したりする機会を逸していることだ。

 

自分の成し遂げたいことを見つけた時にグリッドを発揮する

「社会人になって早い時期に頻繁に転職する人は、キャリア最盛期に高賃金、高収入を得ている傾向がある」転職は実際、高収入と相関性がある。なぜなら、より自分に合った天職とめぐり合うからだ。そして、職を変える経験は、あなたを指導者の地位へと導く確率が高い。

やり抜く力(グリッド)を発揮する前は、トライアンドエラーを繰り返して正しいやり方や自分の成し遂げたいことを明確にするために数を打って量をこなすことが大事。

転職の際は、「数年働いてみないと自分に合っているか分からない」という理由で転職を尻込みする人は多いと思いますが、それは他の場所にある天職を見つけるチャンスを逃すことになるかもしれないのです。

スティーブン・ジョンソンは、特許記録の歴史を研究した結果、「単純に量の多さが質の高さにつながる」と指摘する。ひたすら多くのことを試そう。しくじったものは棄て、脈アリなものにはグリットを発揮すべきだ。

グリッドはどんなことに対しても発揮していては非効率です。トライアンドエラーを繰り返す上で明確になった”重要なこと”に対して発揮するグリッドが、もっとも効果が高いということですね。手当たり次第にいろんなことに手を出してみるのはいいことですが、そのあとにもっとも重要な事柄を選ぶことがより重要です。

 

望めば叶う『引き寄せの法則』が成功を遠ざける?

冒頭で述べた引き寄せの法則についてですが、「望めば叶う」は間違いだそうです

人間の脳は、幻想と現実を見分けるのが得意でないことが、明らかにされている。(だから映画はスリリングなのだ。)何かを夢見ると、脳の灰白質はすでに望みのものを手に入れたと勘違いしてしまうので、目標を成し遂げるのに必要な資源を集結させなくなってしまう。そのかわりにリラックスしてしまうのだ。するとあなたはやるべきことを減らし、達成すべきことも減らし、結局夢は夢で終わってしまう。残酷な話だがポジティブシンキングそれ自体は、効果を発揮しないのだ。

成功する姿を強くイメージするだけだと、脳は自信がすでに成功していると勘違いして満足してしまうということ。

ではどうすれば成功に近づくのか?WOOPといういたってシンプルな方法を紹介しています。

  1. 願いや夢をイメージする
  2. 願いに対して自分が望む成果を具体的に思い描く
  3. 現実から目標達成への具体的な障害について考える
  4. 障害に対処する計画を考える

『引き寄せの法則』を『願いをイメージすればいずれ叶う』と勘違いしてはかえって悪影響。夢と現実の間にある障害に対処する具体的な方法を考えなければ効果はありません。

 

感想

証拠になるデータや実験の数がとにかく多く、個人的にはかなり面白かったです。邦題には「残酷すぎる」とありますが、本当は成功法則を盲信してしまうことの方が残酷だと感じました。あらゆる成功法則に「待った」を掛けて科学的に検証した内容なので、自己啓発書をよく読む方には特に読み応えがあるのではないでしょうか。

 

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